弊社がビルオーナー様とのコンサルティングを通して企画提案させていただいた、持続可能開発目標の達成に寄与する事例をご紹介いたします。
近年「SDGs」や「ESG」のように、世界中で進められる環境問題や社会課題に関するキーワードを耳にすることが多くなりました。
資源を循環させ効率よく活用する「循環型社会」への取り組みについて、関心をお持ちのビルオーナー様は多くいらっしゃるかと思います。世界共通の課題ともいえる問題に取り組むことは社会貢献としての意味を併せ持ち、製品やサービスに対する付加価値、企業の評価向上へとつながります。しかし、取り組むにあたって具体的にはどう考え、どのようにアプローチしていけばいいのか戸惑う方もいらっしゃるでしょう。
弊社が委託管理をしておりますビルを例に挙げますと、建物内の設備更新にあたり、既設品を新品に交換して終了してしまうのではなく、ビル使用者様にとってより良い建物となる+αは何か、を考えました。
それが環境省補助事業 二酸化炭素排出抑制対象事業「大規模感染リスクを低減するための高機能換気設備等の導入支援事業」に採択された「ロスナイ(R)換気システム」の導入になります。環境問題にも取り組んだシステムへの改良、さらに「CO2センサー」を搭載することにより、在室の人数に合わせた効率のよい換気を行います。これにより効率よく電力の削減することができ、結果としてCO2排出量の削減の環境にやさしいビル設備を提供します。
想定される年間CO2削減量は 約18.4t。
換算すると森林2.1ヘクタールのCO2の吸収量に相当します。(参考 林野庁資料による)
また、この36~40年生のスギ人工林1ヘクタールが1年間に吸収する二酸化炭素の量は、約8.8トン(炭素量に換算すると約2.4トン)と推定されます。
森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?:林野庁
森林2.1haは、樹木が豊かな練馬区立大泉公園(大泉学園町6丁目)の約2個分の面積とほぼ同じ
画像はイメージです。実在の場所との関係はありません。
「令和3年度 練馬区みどりの実態調査報告書」P32-33
https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/tokei/kankyo/midori_tyousa.files/r3_all_midorinojittaichousa.pdf
では、空調機器に「ロスナイ換気システム」を導入することによって、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、屋内の「換気」の重要性が広く知られるようになりました。空気が冷たく乾燥する冬は、風邪やインフルエンザが流行しやすくなり、感染症予防の一つとして「換気」がより重要と言われています。
人が室内で過ごしていれば、湿気や二酸化炭素が排出され、汚れた空気が滞留してしまいます。そのままの状態では、感染症にかかりやすくなったり、様々な健康被害を引き起こすリスクが高まった環境となってしまいます。
「換気」とは「室内の空気を室外の新鮮な空気に入れ替えること」。言うなれば、部屋に呼吸をさせることです。しかし、換気を行うということは、空調(夏なら冷房・冬なら暖房)によって快適になった室内の空気を外へ逃してしまうことでもあります。
今回導入する「ロスナイ(熱交換型換気機器)」とは、ひと言でいえば「室温の変動を抑えながら、換気できる」設備。熱交換器により、換気の際に捨てられてしまう室内の暖かさや涼しさを再利用(熱回収)しながら、外の新鮮な空気を取り込み、汚れた空気を排出します。
窓を開けなくとも換気を行うので、室内は新鮮な空気が循環します。換気の過程で約5~8割の熱エネルギーを回収、夏期・冬期の冷暖房負荷を低減するため、省エネが可能な換気システムです。
室内機 | ・既設品と比べ消費電力が冷房時約3% / 暖房時約6%削減 *1 | |
室外機 | ・既設品と比べ消費電力が冷房時約20% / 暖房時約6%削減 *1 ・低負荷時に室外ユニットの稼働台数を負荷に応じて自動制御することで省エネ化。 |
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熱交換型 換気機器 | ・高効率なモーターを採用することで、全熱交換器単体の消費電力が約38%削減。*2 ・C02濃度に応じて換気風量(11段階)を自動制御することで省エネ換気を実現。 ・CO2センサーの学習機能制御により、空調機と全熱交換器の消費電力が未装着時と比べて約31%削減。*2 |
機器画像引用元 三菱電機株式会社 ビル空調マルチエアコン総合カタログ
*1 三菱電機株式会社カタログの仕様表の数値を比較
*2 メーカーパンフレット(三菱電機株式会社)記載
[計算条件]
・対象室体積243㎡(≒9.5×9.5×2.7m)・最大在室人数12名(標準人数を5㎡/人で計算した18名に対し、在室率67%の在室率)・季節日数と温湿度条件 夏期3.5か月(平日75日、休日32日)冬期3か月(平日60日、休日30日)・機器情報 空調機 暖房COP3.6、冷房COP3.19 ロスナイ LGH-N50RXW×1台 ・換気回数2.1[回/h](最大ノッチ時)・目標CO2濃度設定 1000ppm ・電気料金 27[円/kWh]・JIS B 8628:2017に規定された全熱交換効率測定時の室内外空気条件下において当社試算。
データ引用元 三菱電機株式会社「換気の重要性と業務用ロスナイ(天井埋込形)DCマイコンシリーズのご提案」2014年
CO2センサーは二酸化炭素の濃度を段階的に検知し、検知結果に応じて換気風量を自動制御で変更します。在室の人数が多い場合は換気風量を強く、人数が少ない場合は微弱に、という具合に換気風量の最適化することにより外気導入を必要最低限に抑え、空調負荷を軽減。省エネ換気を実現します。
学習機能により、設定した目標CO2濃度と過去1週間の室内最大CO2濃度、その差の測定結果によって、風量切換やCO2濃度の値を自動で変更。強風量の運転時間をできるだけ少なくします。
つまり換気量が少なくて済む場合は、学習機能による自動制御で空調負荷を抑え、さらに省エネができるのです。
【計算諸元】
居室体積:243(m3)、在席人員がおよそ67%程度を想定(※各風量の運転時間はCO2シミュレーションによる)
〈a〉:CO2制御なし8:00~20:00 強風量 20:00~8:00 微弱風量
〈b〉:CO2制御あり(1000ppm目標)、学習機能制御あり
空調機運転時間8:00~20:00の各換気風量時間
微弱風量:1h30min、弱風量:9h50min、強風量:40min
空調機停止時間20:00~8:00の各風量各換気風量時間 微弱風量:12h
夏期3.5ヶ月(平日75日、休日32日)、冬期3ヶ月(平日60日、休日30日)を対象。機種:LGH-N50RX(50Hz)
〈夏期〉外気空気条件:34.5℃、75%RH 室内空気条件:26.5℃、64.5%RH
〈冬期〉外気空気条件:5℃、65%RH 室内空気条件:20.5℃、59.5%RH
空調機暖房COP:3.6 空調機冷房COP:3.19 空調機運転時間は8:00~20:00
ロスナイ消費電力 強:258W 弱:169W 微弱:102W 電気料金27円/kWh
データ引用元 三菱電機株式会社 業務用ロスナイ パンフレット 2016年9月発行
以下の表は、今回の支援事業における実績(一部抜粋)の比較データです。
フロアー | フロアーA | フロアーB | |||
旧/新 | 旧 | 新 | 旧 | 新 | |
換気設備の種類 | 全熱交換器 | 全熱交換器 | 機械換気 (換気扇等) | 全熱交換器 | |
換気量(㎡/h) | 1,800 | 1,800 | 5,200 | 5,200 | |
消費電力(W) | 790 | 935.0 | 2,280.0 | 2,970.0 | |
熱交換(%) | 冷房 | 68.4 | 71.5 | 68.5 | 71.5 |
暖房 |
フロアー | フロアーA | フロアーB | ||
旧/新 | 旧 | 新 | 旧 | 新 |
冷房能力 (kW) | 73.0 | 73.0 | 258.0 | 241.0 |
冷房消費電力 (kW) | 28.42 | 23.10 | 100.54 | 72.00 |
APF | - | 4.8 | - | 5.0 |
冷房COP | 2.6 | 3.2 | 2.6 | 3.3 |
表-2の消費電力の項目の数値は消費電力の増加を表していますが、表-3での消費電力は減少しています。
この逆転は、部分と全体との関係で起こっています。換気設備の部分では確かに消費電力はいくらか増加しますが、上述の換気風量の自動制御やCO2センサーの学習機能制御の効果により、空調設備の消費電力は大きく抑えられるのです。
そして消費電力の単位が異なります。換気設備が「W」空調設備が「kW」となっています。1,000W=1kWですから、単位を「kW」に揃えてフロアーA部分の消費電力比較を見直しますと、下の表-4のようになり、節電になっていることがわかります。
旧 | 新 | 計 | |
表-2 換気設備仕様の消費電力 (kW) | 0.79 | 0.935 | 0.145kW 増 |
表-3 空調設備仕様の消費電力 (kW) | 28.42 | 23.10 | 5.320kW 減 |
総合 | - | - | 5.175kW 減 |
冷房COPとAPFは空調設備の省エネ性能を表し、値が高いほど省エネ能力が高いことになります。COPがある一定の条件のもとで運転した場合の性能であるのに対し、APFは年間を通しての総合負荷と総消費電力量を算出している分、実際に近い効率が算出されていると言えます。
AFPは2006年から表示されるようになった値ですので、表では比較できる旧データがありませんが、冷房COPだけを見ても数値が向上しています。
APFとは「Annual Performance Factor(通年エネルギー消費効率)」のことで、エアコンの省エネ性能を表す指標です。1年を通して、ある一定条件のもとに使用した時の消費電力1kW当たりの冷房・暖房能力を示しています。 APFには「APF2006」と「APF2015」があり、業務用エアコンのカタログや仕様書には、「APF2015」が記載されています。このAPF値が高いほど、省エネ性が高いエアコンであることがわかります。
省エネ性能の指標|三菱電機 空調・換気・衛生|
消費電力の削減は、CO2の削減へとつながります。
下の表-5はエネルギー・CO2削減量の表であり、冒頭の年間CO2削減量はここから導き出されています。
表-5 エネルギー・CO2削減量
フロアー | フロアーA | フロアーB | |||||
電力削減量 (kWh) | CO2削減量 (tCO2/年) | 施設全体の CO2削減率 | 電力削減量 (kWh) | CO2削減量 (tCO2/年) | 施設全体の CO2削減率 |
||
換気設備改修による 電力削減量(旧-新) | -688 | -0.398 | - | -3,274 | -1.896 | - | |
空調設備による エネルギー削減量 | 全熱 回収分 | 304 | 0.176 | - | 800 | 0.463 | - |
空調 改善分 | 6,790 | 3.932 | - | 27,973 | 16,196 | - | |
合計 | 6,407 | 3.709 | 1.33% | 25,499 | 14,764 | 5.29% |
建物内の換気衛生向上からはじまり消費電力の削減、そして新システム導入によるCO2削減。設備更新を機に、弊社で提案したプランのひとつをご紹介させていただきました。
技術は日々発展していきますが、生き物としてのヒトが同じ速度で進化しているわけではありません。
今日も明日も変わることなく、人が住まう・働く場所には様々な設備を必要としています。変わりゆく世界に適応するためのヒントはそこにあるのかもしれません。
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