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煙は炎の先駆け ~煙体験ハウス・資料編~

この記事は【「煙の怖さ」を知るために ~三幸産業グループビル 自衛消防訓練・煙体験ハウス編~】での
建物火災における煙の危険性についての資料となります。

煙は炎の先駆け

「火災で恐ろしいのは 炎よりも煙である」と言われます。

住宅地で発生した火災。周囲を薄暗くするほどの猛煙が発生している。(出典:写真AC)

煙による建物火災の被害について、まず事例に挙げられる歌舞伎町ビル火災(2001年(平成13年)9月1日)では44名もの死者を出しました。近年の事例では、被疑者を含む27名 の死者を出した、大阪・北新地ビル放火殺人事件(2021年(令和3年)12月17日)があります。

これらの火災事例が度々省みられている理由、それは犠牲者の多くが、火傷よりも濃煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒死であったことです。歌舞伎町ビル火災の4階の飲食店には、27人が犠牲となったにも関わらずほぼ燃えた跡がなく、駆け付けた消防隊員は「本当に火災現場なのか」と目を疑ったといいます。

総務省消防庁「令和4年版 消防白書」の附属資料は、火災による死亡者の死因が、火傷と並んで一酸化炭素中毒や窒息によるものであることを表しています。火傷による死亡も、延焼により酸素の減少と一酸化炭素などの有害ガスの増加により、体内が酸欠と有毒ガスによる中毒で行動不能となり焼死するケースが殆どである、とする見方もあります。

(資料引用:総務省消防庁「令和4年版 消防白書」附属資料1-1-21火災による死因別死者発生状況の推移)

(資料引用:総務省消防庁「令和4年版 消防白書」第1章 第1節 第1-1-8図 建物火災の死因別死者発生状況)

1 煙の危険性とは

火災による煙の危険性として、主に次のものが挙げられます。
・ 一酸化炭素等による中毒の危険性
・ 酸素不足による呼吸困難
・ 熱せられた煙を吸い込むことによる呼吸困難
・ 恐怖心による精神的なパニック
煙が床から1.8mよりも下がってくると避難に支障をきたすことになるといわれます。

1-1 毒性

通常の建物火災は燃焼の温度が低い不完全燃焼で、有毒または刺激性のガスが発生します。主なものは一酸化炭素(COガス)と二酸化炭素(CO2ガス)、シアン化水素(青酸ガス)、塩素ガスなどです。これらのうち最も代表的なものが、一酸化炭素です。木材や紙を始めとした有機物が燃えて発生するため、発生量も圧倒的に多いのです
一酸化炭素は無色・無臭の気体で、血液中のヘモグロビンとの親和性が高く、その結合力は酸素の200~300倍にもなります。体内に酸素を運搬するのがヘモグロビンですが、一酸化炭素と結合してしまうとその働きが阻害され酸欠に陥ります。最悪の場合は窒息死、救出されても中毒症状が重篤な場合は低酸素脳症という障害が残ることがあるほど、毒性の強い危険な気体です。

一酸化炭素中毒の症状

(資料引用:東京消防庁)

1-2 熱

一般的な建物火災では出火後7~8分が最も火勢が強いといわれ、その時の室内温度は1,100~1,200度にもなります。煙は、その猛烈な熱気に巻かれて移動します。煙が「高い位置」を漂っているのはそれだけ高熱であることを意味します。触れるだけで火傷、吸い込めば肺や気道が焼かれて呼吸困難による窒息などの危険があります。

1-3 視界不良とパニック

煙とは「不完全燃焼によって発生した微粒子を含んだ空気」のことを言い、大きさ10μm程度未満の非常に小さな固体や液体の粒子の集まりが、熱せられた空気によって浮遊あるいは流されているものです。微細とはいえ固体なので光を遮り、濃度が上がれば真っ暗になります。
真っ暗な中では方向感覚を失いやすく、身を守るために低い姿勢をとれば安全な避難経路を見失いやすくなります。
煙は薄い濃度でも目や喉に刺激があり、そうした身体的苦痛から心理的に動揺しやすい状態といえます。さらに視界が悪くなればパニックに陥りやすくなってしまいます。

2 煙の性質と習性

火災では火からはもちろんですが、何よりも先に煙から逃げなくてはなりません。煙には上述の通り、毒性のガスや猛烈な熱を含み、視界を奪います。しかも広がるスピードは火よりも速いのです。

2-1 煙の拡散速度

煙は、火に熱せられた空気に乗じて高く昇り、天井に行き当たれば横へ広がります。
煙が広がる速度は、無風状態での水平方向へは毎秒約0.5~1m、垂直方向へは毎秒約3~5mといわれています。5階建てのビルの一般的な高さは約18m。人が階段を上る平均的な速さは毎秒0.45(国土交通省「階避難安全検証法に関する算出方法等を定める件」建設省告示第千四百四十一号 2000年5月31日に基づく)とされ、18mを上りきるのに40秒かかりますが、煙はわずか3.6~6秒でその高さに達します。
横方向への広がりは人が歩く程度の速さですが、上方に向かっての拡散は、人が階段を上がるよりも早いのです。

2-2 煙の滞留と空気層

屋外であればそのまま上空へ拡散していきますが、屋内の多くは、上は天井・四方は壁面に囲まれています。そのため、火に熱せられて煙は上昇し、天井に突き当たると横方向へ広がっていきます。広がった先で壁面にぶつかると、そのまま屋内上部に滞留していきます。さらに煙が供給され続けると行き場を失い、今度は壁に沿うように下方向に向かって滞留を始め、煙層と空気層の上下に別れます。煙層は室内の空気層を圧迫しながらさらに下方に下りています。
煙層に押しやられて、空気は、家具や壁などの隙間、壁・家具などと床との境目(巾木のあたり)に移動します。階段などでは踏面と蹴込の隅に空気層が残っていることもあります。

2-3 目をふさぐもの

煙は不完全な燃焼によって発生し、熱気に乗じて天井面に沿って広がります。

しかし、火元から離れて熱が失われてくると、それまで天井などを這うようにして溜まっていた煙が突然に降下し始めます。煙と空気に分かれていた層が崩れ、それまで見えていた屋内、避難経路や非常口をも数瞬で見えなくしてしまうのです。

この現象が煙の恐ろしさのひとつと言われています。

煙が天井近くを浮流している初期火災の段階に避難することが大切なのです。

避難方法

発火してから炎が天井に達する数分間が初期火災と言われます。火炎が天井に届くほどに大きくなる頃には室内は非常に高温になり、部屋そのものが一気に燃え始めます。

3-1 鼻と口を覆う(呼吸を守る)

ハンカチやタオルで口と鼻を覆います。持ち合わせがない場合、袖口や上着、手袋や帽子などで、周囲にある布製のもので覆います。水で濡らす必要はありません。避難行動に移ることが最優先です。重要なのは煙を吸い込まないことです。
呼吸は静かに少しずつ。息を止めてしまうと、我慢できなくなった時の一呼吸で煙を多量に吸い込んでしまうためです。濃煙の中を避難する時には決して息を止めずに、少しずつ呼吸をしながら移動します。鼻から吸って口から吐くのが有効とされています。

3-2 姿勢を低くする(煙にふれない)

煙の状況によって、煙に触れない姿勢(屈む・アヒル歩き・這う)で避難します。煙で前が見えなくても、壁に手を当てながら壁伝いに進めば必ず出口に行き当たります。
また、室内や廊下では壁面と床面の隅、階段では蹴込と踏面の隅に『空気層』が残っている場合があります。その空気を吸いながら避難します。避難途中に階段を降りる場合、階段に這うようにして後ろ向きに下りていきます。

世に火災の煙被害による事例、危険性や恐ろしさを訴える情報は枚挙の暇がないほどです。そのような体験をする事態などあってはならないことですが、事故・災害はいつどのように起きるかわかりません。不測の事態に対応できるようになるためには、ウイルスに対するワクチン投与のように緩めた実体験、つまり訓練を重ねることが大切なのです。

そうした事柄を踏まえ、2022年11月17日、弊社は石神井消防署のご協力の下、自衛消防訓練として「煙体験ハウス」による訓練を行いました。

訓練実施の様子の記事は下のリンクからご覧いただけます。
【「煙の怖さ」を知るために ~三幸産業グループビル 自衛消防訓練・煙体験ハウス編~】